神楽坂/ 伊勢藤 (清酒白鷹、酒肴)
伊勢藤
先日YH氏のお誘いを受けて神楽坂へ出掛けた。
伺った先は清酒白鷹を静かに嗜むことでつとに有名な「伊勢藤」である。
「伊勢藤」を最初の一軒目に選ばれたのはYH氏である。
私としてはほぼ一年ぶりの神楽坂であり、かつ「伊勢藤」である。
何の抵抗も疑問もなく、YH氏の提案を素直に受け入れた次第であった。
YH氏も私も定職を離れて久しく、開店の5時ということはないにしても6時までには入店できるという状況である。
この日は工事中であるJR飯田橋駅を経由して「伊勢藤」に至ったのであったが、その時刻は存外に早くて5時を過ぎること15分という頃合いであった。
店内に歩を進めると、既に数組の先客が囲炉裏端で店主殿と静かに話をしつつ盃を傾けておられた。
当方は二人であることから小上がりを所望し、窓の傍の席に着かせていただいたのであった。
席について程なく、若女将から清酒白鷹の飲み方について尋ねられ、燗を付けていただくことにした。
以前書いたことを繰り返すことになって申し訳ないが、「伊勢藤」で供される清酒は毘沙門天様に奉献される清酒「白鷹」のみであり、その飲み方は常温かもしくは店主殿が絶妙の手練で付けてくれる燗のみである。
私の場合は、燗を付けた方が香りが佳いのでこちらをいただくことがほとんどである。
この日がYH氏にとっては初めての「伊勢藤」であり、YH氏にも燗をお薦めした次第であった。
注文を終えて暫らくすると、燗の付けられた「白鷹」と酒肴が供された。
燗を付けられた「白鷹」は人肌燗で、一口含むと「白鷹」の程良い香りが広がり、同時に酒精が舌の表面を軽く痺れさせるように流れていったのであった。 酒肴
酒肴は、玉子焼き、竹輪の中心にキュウリが入れられたもの、金山時味噌のような味噌と大豆を和えたもの、なます、などヴァラエティ豊かな酒肴であった。
自ずから酒が進むというものである。 お品書と鈴
更に何か酒肴を追加しようということでYH氏に選んでいただくと、「たたみいわし」を挙げられた。
当店で何かを注文する際には卓上の鉄鈴をそこはかとなく鳴らして合図するということが決まりごとの一つである。
この鉄鈴は一寸持ち上げるだけで小さな音を発するが、店主殿がそれを聴き逃すことはめったに無いのである。
先述の通りYH氏は初めての来店であられたことから、鉄鈴を鳴らすようお薦めした次第であった。 たたみいわし
供された「たたみいわし」は程良く炙った後に醤油が軽く掛けられていて、炙られたことによりクリスピーな歯応えと軽く香ばしい味わいが生まれ、これが「白鷹」と好い相性であった。 みそしる
次いで、味噌汁が供され、清酒で覆われた胃の内面がリフレッシュされたのであった。 味噌でんがく
更に追加で酒肴を一品いただこうということになり、YH氏選んでいただいたのが「味噌でんがく」であった。
二回目の注文もYH氏にお願いし、YH氏は今度は慣れた手つきで鉄鈴をそこはかとなく鳴らされたのであった。
供された「味噌でんがく」は蒟蒻の上に柚子であろうか、淡い柑橘系の香りがするものであった。 乾燥納豆
当店ではお酒の進み具合(注文の進捗)によって、酒肴が供される。
昨年も出たので憶えているが、「乾燥納豆」が「味噌汁」の後に供されたのであった。
私は昨年の6月以降抗凝血薬を服用しており、そのために納豆の摂取を禁止されていることから全量をYH氏に引き受けていただいた次第であった。
なお、心優しいYH氏は三本あった「味噌でんがく」の二本を私に譲ってくださった。 風鈴
ところで、窓には簾が掛けられていて、ここを通してそよ風が時々流れていった。
そして、階下からは湯浴みの音がいつものように6時半を過ぎた頃合いに聞こえてきた。
その音は、手桶で掬ったお湯で掛け湯をされているような音であった。
私からは、妙齢のご婦人が湯浴みされているように推察した旨を伝えると、YH氏は逆に爺様が掛け湯をされていることを思い受かべられたとのことであった。
真逆の光景である。
願わくばお座敷に出る若くて綺麗な芸者さんが身支度を整える前にされる湯浴みであれかし、と思う処であるが・・・。
日も落ち、行燈の明かりが目立った
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